サリンジャー「小舟のほとりで」あらすじ&相関図で解説

アメリカ文学/ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー/ナイン・ストーリーズ/グラース・サーガ

「きみがなぜ家出するのか、そのわけを聞かしてくれたら、あたしは知ってるだけの秘密のラッパをみんな吹いてあげる。いい?」

とたんにライオネルはうつむいて視線をデッキに戻し「だめ」と、言った。

―父親の小舟に立てこもるライオネル少年に、やさしく問いかける母親ブーブーー

【読書指標】  

文章難解度 ★★★☆☆

物語の長さ ☆☆☆☆

要背景知識 ★★★★

何気ない陰口の残酷さ。
家の中で会話している大人の感情って、子どもには敏感に伝わるもの。
メイドの差別発言に傷つく繊細な少年と、社会の醜さを知る母親の慰め。
ユダヤの血統であるグラース家の兄弟たち。母になった長女ブーブーにスポットを当てた、グラース・サーガの短編。爽やかな読後感が味わえます。
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主要人物を4人だけ覚える

ざっくり相関図

シーン別:攻略ポイント

①ミセス・スネルに不満をグチる、家政婦サンドラ

舞台は、グラース家の長女ブーブーが嫁いだタンネンバウム家所有の、湖畔の別荘地。
メイドのサンドラと、近所に住むスネル夫人の会話で始まります。
雇われているタンネンバウム夫妻の坊やライオネルへの愚痴と、ある「心配事」に対して、スネル夫人は大丈夫だとなだめます。
その「心配事」とは、何でしょう?

②ライオネルの家出癖について、二人に説明するブーブー

会話する二人の前に女主人のブーブーが現れ、家出したはずの4歳の息子、ライオネルの居場所を尋ねます。
なぜライオネルが家出するのか興味を示す二人に、ブーブーは今まであった幾つかのプチ家出エピソードを披露し、あの子の癖みたいなものと答えて笑います。

③様子を見に来たブーブーが、小舟で居座る息子に話しかける

ライオネルが桟橋に繋いである父親の小舟で座っています。
やってきた母親ブーブーが息子に家出の理由を尋ねますが、ライオネルは返答せずに、舟に置いていたゴーグルを湖に投げ捨てます。
ブーブーはプレゼントのキーチェーンを見せ「これも海に捨てたほうがいい?」と言って投げ渡しますが、ライオネルはこれも湖に投げ捨て、泣き出してしまいます。

④傷心のライオネル、その理由とは

さっきメイドのサンドラが、父親のことを「薄汚いユダ公(kike)」とスネル夫人に言ったのを聞いたと母ブーブーに告げます。

その差別発言こそ、ライオネルが傷つきプチ家出をした理由であり、サンドラの「告げ口される心配事」だったのです。

ブーブーは息子を慰めながら「薄汚いユダ公(kike)」の意味を尋ねると、ライオネルは「空に上がる凧(kite)」だと答えます。

母ブーブーは泣き止んだ息子と二人で、家まで走って競争します。

コラム:ライオネルが湖に捨てた、グラース家の長兄シーモアのゴーグル

この作品も、サリンジャーといえば「グラース一家の物語」シリーズという代表的な連作の一篇で、グラース7人兄弟の3番目に当たるブーブーにまつわる話です。

彼女の立場からすると、同じ「ナイン・ストーリーズ」に収められた「バナナフィッシュにうってつけの日」で自殺する天才シーモアは7人兄弟の一番年上の兄、2番目の兄が作家のバディです。

さて、ライオネルが湖に捨てることになる小舟のデッキに転がっていたゴーグル、母ブーブーから「もともとはシーモア叔父さんのものだったが、現在はウェッブ叔父さんのものだ」と説明されます。

「ウェッブ叔父さん」の愛称がバディなので、このゴーグルの持ち主が長男シーモアから次男バディに変わったということになります。

すると、やはり「バナナフィッシュにうってつけの日」で長男シーモアが使用していたゴーグルを、次男バディが形見として預かっているということになるのでしょうか?

…いやいや、ブーブーの年齢から計算すると、この「小舟のほとりで」の時点での長男シーモアは、まだ軍人としてヨーロッパに駐留しています。つまり、まだ自殺していない。

どうやらサリンジャーが連作において、時系列の辻褄合わせに失敗しているとの見方が…でも結局は迷宮入り。

それでも研究者が後を絶えないのは、サリンジャーの謎に満ちた作風によるものでしょう。

 

「小舟のほとりで」、読んでみていかがでしたか?

意見や感想など、コメントをお待ちしています。

それでは!

 

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