私はマリィの方は見なかった。私にはその暇がなかったのだ、というのは、さっそく、裁判長が奇妙な言葉つきで、あなたはフランス人民の名において広場で斬首刑をうけるのだ、といったからだ。そのとき、私は顔という顔にあらわれた感動が、わかるように思われた。
―第二部よりー
文章難解度 ★★★☆☆
物語の長さ ★★☆☆☆
要背景知識 ★★★☆☆
異端児って、どんな人?
主要人物を4人だけ覚える
ざっくり相関図
シーン別:攻略ポイント
①養老院で暮らしていた母の通夜
②翌日、海水浴場で再会したマリィと戯れ合う
③隣人のレエモンが娼婦を殴って警察沙汰になる
④レエモンを尾行してきたアラビア人を銃殺する
レエモンの誘いで、ムルソーはマリィを連れて小さな別荘のある浜辺へと出かけます。
しかし不審なアラビア人の一団が、浜辺に向かうレエモンたちを執拗に尾行して来ます。
おそらくレエモンと騒動になった情婦が兄に相談し、仲間を連れて報復に来たらしい。
用心のため、レエモンから拳銃を渡されるムルソー。太陽が熱が照り返す浜辺。
レエモンがアラビア人の短刀で負傷したのを知り、ムルソーはアラビア人の1人と対峙し銃で撃った後、倒れたアラビア人に残りの弾4発をすべて撃ち込みます。
⑤刑務所に入れられ、死刑判決を受ける
逮捕されたムルソーは何度も尋問を受け、裁判にかけられます。
母の死に直面しても涙を流さず、その翌日には女性と笑い転げて情事にふけり、倒れているアラビア人に残りの弾4発をさらに撃ちこんだこと。つまり被告人ムルソーは冷酷な人間であると、検事は指摘します。
長時間の陪審の結果、裁判長はムルソーに斬首刑の判決を言い渡します。
⑥訪問に来た司祭を罵倒する
死刑を宣告されたムルソーの監房に司祭が訪れ、懸命に懺悔を促しますが、ムルソーは断固拒否。
神への改心によって罪は赦される…と教えを説く司祭の襟元をつかみ、ムルソーは「祈りなどするな!」と怒鳴り、「周囲に同調しているだけの生き方」を罵倒し始めて…。
コラム:ムルソーが人を殺した動機…それは「太陽のせい」?
まず、ムルソーには「愛」という一般的な感情を持ち合わせていないように見えます。
マリィに「私のこと、愛してる?」と聞かれても、ムルソーは…「それは何の意味もないけど、たぶん愛していない」とだけ(笑)。
また、マリィから結婚話を持ち掛けられても、ムルソー曰く「そんなことは何の重要性もないけど、君が望むなら一緒になっても構わない」。
それでもマリィは負けません。殺人の罪でムルソーが逮捕されても彼女は面会に訪れ、「出所したら結婚しましょう!」と告げるほど。…メンタル強すぎです。
一見、そんなマリィの健気さばかりが印象に残りますが…検事が主張するように、ムルソーは本当に冷酷な人間なのでしょうか?
一般人は演技を交えてコミュニケーションを取らないと、社会では生きていけません。
しかしムルソーは、演技をし嘘をつく行為を一切拒否して生きているのです。
ただ感じること、ただ存在すること…この「真理」だけを信じているのでしょう。
もちろん、神(宗教)も信じることができません。それが、この物語の舞台である厳格なカトリック教徒の社会であっても。「異邦人」たる所以です。
だから裁判で殺人の動機を尋ねられ、なぜムルソーが「太陽のせい」と答えたのかについても、太陽のように万物をすべてを明るみにする、噓偽りのない生き方を貫いてきたせいだ、と解釈できます。
作品を読めばわかると思いますが、ムルソーは誰に対しても分け隔てなく優しい態度で接しているんですよね。
もしかするとムルソーは、「実は一般人の誰もが憧れる強い人間」かもしれません。
でも彼のような新人が自分の部下として入社してきたら…。うーん、ちょっと面倒かも(汗)。
「異邦人」、読んでみていかがでしたか?
意見や感想など、コメントをお待ちしています。
それでは!
コメント
分かりやすくまとめてあったあらすじを追いやすかったです。
不条理文学の傑作ですね。やはりこの小説の最大の疑問は「太陽のせいだ」にあると思われますが、「太陽のように万物をすべてを明るみにする、噓偽りのない生き方を貫いてきたせいだ」というのは、なるほどなあと感じました。仰る通り、ムルソーには「愛」がないように見えるばかりか、他の感情すらも薄い感じがします。自己というものを客観視しているというか、受動的というか。内容だけでなく文体レベルで不思議な印象を受ける小説ですね。
コメント頂きありがとうございます!
おっしゃる通り、読み手によって多様な解釈ができる個性的な主人公だと思います。
ある意味で動物的な、大自然の感覚で人間社会を生きているような架空のケースモデルとも思えました。
直近で「異邦人」の英語版解説動画を作成しました。
https://www.youtube.com/watch?v=gDllo-bb5Is
全編英語なのでもしかするとお役に立てないかもしれませんが、もしよろしければご覧頂けると幸いです。