ドストエフスキー「罪と罰」あらすじ&相関図で解説

ロシア文学/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

「果してぼくは婆さんを殺したんだろうか? ぼくは婆さんじゃなく、自分を殺したんだよ! あそこで一挙に、自分を殺してしまったんだ、永久に!」

―老婆殺しをソーニャに告白するラスコーリニコフー

【読書指標】  

文章難解度 ★★★☆☆

物語の長さ ★★★★

要背景知識 ★★★★

自意識の高い青年が「善い行い」として犯した、ある殺人。
気高い精神で遂行されたはずの野蛮な行為はいつしか自分を苦しめるようになり、少女の徹底された自己犠牲の生き方に心を打たれひれ伏してしまう…。
人間回復への強烈な願望を訴えた、ドストエフスキー後期五大長編小説に数えられる世界的名作!
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主要人物を4人だけ覚える

ざっくり相関図

シーン別:攻略ポイント

①高利貸しの老婆殺害計画、そして実行

学費未納のため大学を除籍処分された、貧乏な青年ラスコーリニコフだが、エゴが強く自分が「選ばれた非凡人」だと意識していました。
だから、世のためになるなら道徳を踏み外してもいいと考え、悪名高い高利貸しの老婆を殺して、その財産を貧しい人々のために盗む計画を企てます。
リハーサルでは、下宿から老婆の質屋までちょうど730歩…。老婆に借りた金で飲みに行った居酒屋で、泥酔しているソーニャの父と知り合います。
貧しくて娘ソーニャが娼婦になった話を聞くと、ラスコーリニコフは彼に金を渡し、計画していた高利貸しの老婆殺害を実行!…しかし、目撃者である老婆の妹リザベータまで斧で殺してしまい、そのまま金品を奪って逃げ帰ります。

②事件後の体調悪化に煩わされ、周囲の人たちと衝突

事件直後から罪の意識に苛まれ、ラスコーリニコフは熱病で寝込むようになります。
借金返済の督促で警察署に出頭するも、昨夜の老婆殺害事件の会話を聞き、気を失ってその場に倒れてしまいます。
下宿に戻り安静にしていると、母からの手紙で知らされていた妹の婚約者が部屋にやって来ます。
その無礼な態度に腹を立てて下宿から追い出し、彼自身も通りを徘徊していると、馬車に轢かれたソーニャの父マルメラードフの事故死を目の当たりにします。
娼婦姿のまま駆けつけて来た娘のソーニャに金を渡して下宿に戻ると、母と妹が部屋で待っていました。

③親友に犯行を疑われて…ポルフィーリィとの初対決!

家族の貧窮を救うためだけに、妹が金持ちなだけの無礼な婚約者と結婚することに反対するものの、その財産によってラスコーリニコフの展望を期待する母と妹は、彼をなだめようとします。

様子を不振に感じていた親友が、ラスコーリニコフを警察署に連れて行き、老婆殺しの捜査をしている予審判事のポルフィーリィと対面することに。
犯人として疑われるラスコーリニコフはポルフィーリィが繰り広げる論戦に苦しめられるも、なんとか追求を逃れます。
下宿に戻ったラスコーリニコフは、過去に妹を雇用していた主人スヴィドリガイロフの訪問にしぶしぶ応じます。

④ポルフィーリィとの対決再び、無関係な若者が自首?

妹に想いを寄せているスヴィドリガイロフから結婚の破談に協力するとラスコーリニコフに持ちかけるものの、結局は婚約者本人の横暴な発言で母と妹の反感を買い、婚約解消となります。

ラスコーリニコフはソーニャの部屋を訪れ、置いてあったリザヴェータの聖書を見つけると「ラザロの復活」を朗読してほしいとソーニャに食い下がります。

戸惑う彼女に「明日、リザヴェータを殺した犯人を教える」と言い残して警察署に向かいます。

そこで再びポルフィーリィに苦戦を強いられますが、老婆殺害犯を名乗るペンキ屋の若者が突如現れ、この思いがけない展開にラスコーリニコフは窮地から逃れます。結局このニセ犯人、何だったのかって話ですけど(笑)。

⑤故人マルメラードフの法事で大騒動…そして罪の告白

結婚を諦めきれず、破談にされてラスコーリニコフに恨みを持つ妹ドゥーニャの元婚約者は、事故死したマルメラードフを弔う法事の場で、ソーニャを金銭泥棒に仕立て上げます。

その策略を見破ったラスコーリニコフが彼女を救いますが、アパートに逃げ帰るソーニャを追いかけ、彼女の部屋で「自分が老婆と妹リザヴェータの殺人犯だ」と告白します。

しかし、隣の部屋を借りていたスヴィドリガイロフが一部始終を盗み聞きしていて…。

⑥ポルフィーリィとの最終対決…罪は免れるのか?

ラスコーリニコフの部屋に直接ポルフィーリィが訪ねて来ます。

本物の犯人はペンキ屋の若者ではなく、やはりラスコーリニコフだと主張した上で自首をすすめるも、ラスコーリニコフはシラを切り続けます。

スヴィドリガイロフは盗み聞きしたラスコーリニコフの罪の告白をネタに、妹ドゥーニャに結婚を迫ります。しかし完全に拒否されたことでピストル自殺します。

そして、とうとう罪の意識に耐えきれなくなったラスコーリニコフは自殺を考え、母に別れを告げます。恐ろしい結末を予感する母だけど、どうすることもできず…。

コラム:もうひとつの「罪と罰」…マルメラードフ夫妻のオールザッツ漫才!

 

そこまで敬虔なクリスチャンであるソーニャが、なぜ娼婦になったのか。

その原因はすべて、酔っ払い親父マルメラードフのダメっぷりでしょう。

 

ギャンブル好きの前夫が借金を残して死に、3人の幼い連れ子と途方にくれていたカテリーナと、娘ソーニャと貧しい暮らしていたマルメラードフが再婚。

カテリーナは肺病を患ってしまうし、一家の主であるマルメラードフが酒に溺れてしまったとあっては、当然家族が食べていけなくなります。

そこで若いソーニャが、貧しい家族を助けるために娼婦になったのです。

 

…が、このクズ親父マルメラードフの暴走は止まりません。

ソーニャが体を売って稼いだ金を持ち逃げし、仕事も無断欠勤したまま何日も居酒屋で酒浸りになっているのです!

そして店に入ってきたラスコーリニコフを呼び止め、こう呟きます。

「学生さん、ワシは憐みと同情が見つかるような気がして、酒を飲んでいるんだ…」と。

 

ベロベロニ酔いつぶれるマルメラードフを介抱し、家に送り届ける心優しいラスコーリニコフ…のはずが!

妻カテリーナに、感謝されるどころか不審人物扱い。

玄関先で倒れているマルメラードフの髪を引っつかんで罵り叫ぶと、妻から罰を受けている喜びでつい「う、うーれしいんだよ、学生さん!」とラスコーリニコフに訴えながら匍匐前進で引きずられるマルメラードフ…。まるで凄まじいコントか漫才を見ているようです。

 

このような「罪(ボケ)」と「罰(ツッコミ)」の夫婦漫才が何度か拝めるのも、この作品ならではの魅力なんでしょうか。

それにしても、こんな家族の境遇に同情して犯行に及んだラスコーリニコフって…。

 

「罪と罰」、読んでみていかがでしたか?

意見や感想など、コメントをお待ちしています。

それでは!

 

コメント

  1. UNO より:

    こんにちは。私は先月、新潮社の上下巻を始めて読みました。
    とてもおもしろかったのですが、内容理解のため再読してます。
    ちょっとわからない点がいくつかあり、
    そのうちの一つが
    ルージンとソーニャが同席するきっかけがどこにあったか、です。
    マルメラードフとルージンは接点がないようにも思えたので、
    なんで法事に参加したんだろうな、、と。
    失礼しました。

    • 杜矢 A士 杜矢 A士 より:

      コメントありがとうございます。
      お返事が遅くなり申し訳ございません。

      現在外出中で本が手元になく、
      記憶を辿ってとりあえず答えるなら
      ルージンはラスコーリニコフと
      ソーニャが知り合いだと知った上で
      確かルージンと懇意にしてた友人?の前で
      ソーニャにお金を寄付したように細工し
      マルメラードフの葬式に行って
      ラスコーリニコフの前でソーニャを
      泥棒扱いにした、という流れだったような…。

      すみません、もう一度本で確認して
      再度ご連絡させて頂きます。

      また「杜矢A士のアニメーション文学」
      というYouTubeチャンネルで
      文学作品の解説動画を作っているのですが、
      数ヶ月後に「罪と罰」を扱うつもりなので
      今回のご質問も参考にさせて頂きます。

  2. じろうさん より:

    初めまして。杜矢さま。

    このサイトのページを随分前に読んだのですが、最近また読みたくなり、画像保存していた画を画像検索して辿り着きました。

    前も思ったのですが、特にこの、罪と罰のページのラスコーリニコフとソーニャの絵が素晴らしく、それ以来、僕の中で、2人は
    杜矢さんのこの絵のイメージになりました。

    映画やTVドラマにもなり、色んな人が演じている2人ですが、杜矢さんの、この絵を超えるものはないですね(笑)
    特に、ラスコーリニコフ!この、クセのありそうな、自我の強そうな、ややこしいキャラクターを表現したデザインは、絶品だと思います。

    杜矢さんのこのサイトを思い出したのは、amazonで「罪と罰REMASTER」という書籍を出されてる方がいて、その方がほぼ全登場人物の絵をAIで制作して載せていたからなのです。
    それを見て、「ラスコーリニコフは、杜矢さんの絵の方が良かったぞ」と(笑)
    ソーニャの方は、どちらかと言われても、なかなか甲乙つけ難い出来です。
    是非、見てみて下さい。
    僕は、全登場人物を杜矢さんの絵で見たいですね(笑)

    文学に詳しい人は沢山います。絵が描ける人も沢山いますが、作中人物をこれ程巧みに絵にしている方は、なかなかいません。
    杜矢さん、最高です(笑)
    ブックマークしましたので、これからは新しい記事を楽しみに読みたいと思います。

    あ、出来れば、「復活(トルストイ)」「モンテクリスト伯」「レ・ミゼラブル」「ノートルダム・ド・パリ」「大地(パール・バック)」「クォ・ヴァディス」「白い牙」なども紹介して頂けたら嬉しいです(笑)

    勝手なことを書いて、失礼致しました。

    • 杜矢 A士 杜矢 A士 より:

      はじめまして。
      コメント頂きありがとうございます。
      非常に勿体ないお言葉を頂戴して誠に恐縮でございます。

      ここしばらくYouTubeにて文学作品のあらすじを動画で紹介しております。
      https://www.youtube.com/@aeijimoliyasanimationliter8049
      現在はチャンネル名も新たに動画内容を改良して新作を準備しております。
      おそらくですが、「文学ミュージアム」というチャンネル名に改める予定です。

      YouTubeでも「罪と罰」を作成しましたが、キャラクターのイラストについては
      いろんな絵のタッチを試してみようとして失敗した回のひとつです(汗)。
      過去回もリニューアル後に機会をみて再編集するつもりでいますので、
      その時はキャラクターのイラストも描き直させて頂きます。

      次回の新作からしばらくは制作予定のタイトルが決定してしまっておりますが、
      「レ・ミゼラブル」、「白い牙」、「モンテクリスト伯」については
      いずれ制作するつもりでリストには入れておりますのでよろしくお願いします。
      トルストイについてはまだ紹介出来ていないため、まずは代表作の
      「戦争と平和」か「アンナ・カレーニナ」を優先して制作するかと思います。
      「復活」はまだ読んだことがないので、機会をみてぜひ読ませて頂きます。

      未熟な点も多々あるかと思いますが、今後とも何かとご教示頂けると幸いです。
      何卒よろしくお願い申し上げます。

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